体制移行に伴う転籍の同意後に不利益が生じたとする主張への対応と訴訟リスク

◯事案の概要

持株会社への体制移行に伴い、グループ会社間で一部の部門において転籍を実施したところ、転籍前の事業会社で人事・給与制度が変更され、結果的に転籍による不利益が生じたとの苦情を受けている

◯相談内容

この春(4月)に、持株会社体制へ移行した会社なのですが、管理部門などの社員は、事業会社から持株会社へ一斉に転籍となりました。その際に、転籍先では人事制度・給与制度が異なる為、人によっては多少の賃金の不利益が発生するのですが、なるべく大きな不利益変更とならないよう、3年間は調整給を支給し、年収を保障する措置を取っております。

就業時間や年間休日、勤務地、退職金、その他福利厚生などの条件は変更ありませんし、仕事内容についても、今までと内容が大きく変わるものではありません。転籍先での労働条件の説明はきちんと行い、3月に全員から「転籍同意書」をもらい、4月から転籍してもらった次第です。

ところが、「転籍同意書」を取得した後に、転籍前の事業会社も人事制度・給与制度の変更を行ったようで、その内容を聞き知った転籍者が、「(転籍前の会社の)新人事制度の詳細を事前に知っていたら、転籍に同意しなかったかもしれない。」と、今になって苦情を言ってきたようです。というのも、もし転籍しなかったら、その新しい人事制度では、自分の今の転籍後の処遇よりも良くなるようで、そのことに不満を持っているようです。

転籍前の会社でも、人事制度の見直しを進めておりましたので、社員の皆さん(転籍対象者も含む)には制度について段階的に発表はしていたのですが、新人事制度の詳細について、経営層の最終決済がなかなか降りず、最終的な正式発表が遅れてしまいました(4月に発表)。転籍対象者に意図的に隠していたわけではありませんので、転籍の同意を取得する時点(3月)では、その時点で明らかになっていたことはきちんと説明を行っているとのことです。会社からは、この苦情に対して、「どのように対応したらいいですか」、という漠然としたご相談です。

私からの回答としては、転籍の手続きについては、バタバタと短期間で行ったことは否めないが、労働条件の大きな不利益変更は無いですし、その苦情を申し出た社員についても、給与は転籍前より増えており、かつ3年間は年収を保障しているので、労働条件の不利益変更には当たらないのではないか。「もし転籍しなかったら、もっと給与が増えていたかもしれない」というのは転籍時点で明らかになっていなかったことですので、後から分かった将来的な期待まで保障する必要はないのではないか、ということです。

「そのことを知っていれば転籍に同意しなかったかもしれない」と言っておられますが、だからと言って転籍を取り消すことも現実的ではありません。(組織体制が変わっているので、元の会社にその人の仕事はありません。)転籍先でも、もちろん頑張れば、給与はまだまだ伸びる余地はありますので、目先の損得ではなく、大いに実力を発揮していただけるよう、会社として取り組んでいくしかないのでは?とお伝えしております。

以上、長くなりましたが、菰田先生にご相談したいことは、とにかくこの会社は、「訴え」を起こされることを恐れているようなので、万一、訴えを起こされるとしたら、何を争点に訴えを起こされるリスクがありそうでしょうか。

①転籍の手続き不備(説明不足など)による転籍無効の訴え(地位確認?)
②労働条件の不利益変更

でしょうか?訴えを起こされるリスクの程度と、どこまで本人の要求を呑みリスク回避に努めるのか、の会社の判断材料をいただければ、と思っております。いくら会社に非はありませんよ、と言ったところで、訴えを起こされるかどうか、は分かりませんので、社労士としてどのようにアドバイスすべきか悩んでおります。

◯菰田弁護士の回答

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