債務不履行はあっても損害が生じていないケースについて

◯事案の概要

未改装の部屋を案内した人に対して、スタッフが「借りるかどうかの判断は改装後の部屋を見てからでよい」と案内した。しかし後日、貸主が改装完了前の時点で契約の申込みがないなら断ると言ってきたため、そのことを本人に伝えたところ、住むつもりで準備してきたので損害賠償を請求すると主張している

◯相談内容

不動産の賃貸仲介における不動産会社の責任に関する質問です。

未改装の部屋の案内をした際に担当の営業スタッフが、「申し込みをした上で借りるかどうかの判断は改装後の部屋を見てからでいい」と伝えた上で賃貸保証会社の審査を受けることを勧めました。

それを受け、お客さんは保証会社の審査を受けて承認を得ています。この段階では貸主からの承諾はまだですが、とりあえず部屋の改装には取りかかっています。

その後、貸主から改装の完了日の連絡があり、内覧日の確認をして欲しいと貸主から言われましたが、そこから3日間、お客さんと一切連絡がつかなかったため、その旨を貸主に伝えました。すると貸主から、今日中に連絡がなければ申し込みがあっても断る、また連絡がついても改装完了前の今日の時点で契約の申し込みがなければ今後は断ると通告されました。

そこで、まず「本日中に連絡がないと今後申し込みを受けられない」という内容のメールを送りました。営業スタッフからも、改装が完了した部屋を見ないと契約の申し込みはできませんか?改装後の状態を見て部屋を借りるのをやめることはありますか?というメールをしたようです。

お客さんからの返信は、改装後の部屋を見て、気に入らなければ契約しないこともあるので、現時点では契約の申し込みはできないとのことでした。そこで、貸主から「今決められないなら断る」と言われたことを伝えました。

お客さん側からすると、住むつもりで準備してきたのを急に断られても困る。住めないなら損害賠償を請求するということでトラブルになっています。

ここで考える問題点はと私の考えは以下のとおりです。

①保証会社の審査の申し込みをしているが、それが契約の申し込みにあたるのか?
→申し込みの前提ではあるが契約の申し込みではないと考えます。

根拠は、賃貸借契約の条件の1つとしている貸主指定の賃貸保証会社の加入があるので、契約前に契約条件確認の1つとしておこなった行為であることです。

それから、保証会社の審査によって保証料等の条件の変動もあり、賃貸契約にかかる初期費用も変わることから、保証確定後に再度お客さんに契約の申し込みの意思確認が必要であることも根拠です。

②仮に1が申し込みだった場合、保証会社の承諾が貸主の承諾となるのか?
→保証会社の承諾は貸主の承諾ではないと考えます。

上記と重複しますが、保証会社と貸主は全くの別人格であり、保証会社の加入が賃貸借契約の条件の1つではあるが、それだけが貸主の審査の全てではないため・いわゆる貸主の承諾が必要条件、保証会社の承諾が十分条件であるためです。

③改装に着手したのは契約の承諾となるのか?
→改装の着手は申し込みな判断のための要件であって、契約の承諾とは関係ないと考えます。

お客さんが改装後の部屋を確認した上で契約申し込みの判断をするということで、貸主としては契約締結に向けての期待があることは確かです。

しかし、契約の承諾を貸主側が事前にして、お客さんがよければ住んで下さいという状況ではなく、改装後の内覧→お客さんからの契約申し込み→貸主の判断という順序で契約手続きを進めています。

④改装後に見て判断していいと営業スタッフが伝えていたのに(その段階では貸主も改装後に判断することは了承、ただ契約の承諾ではない)途中で即決しなければ断るとしたことに法的問題はないのか?
→正式な申し込みがない段階で貸主側から断る自由は貸主として当然の権利だと考えます。

伝え方や断り方に不動産会社の作為的なところがあり、問題はあるものの、法的責任はないと考えます。契約において当事者間で契約をする、しないという権利はお互いが有しているものだからです。

最後に大前提として、契約の申し込みの意思がはっきりとしていない状態だったので、不動産会社としては重要事項の説明をまだ行っておらず、契約手続きに着手していないという認識です。

また、損害賠償についても、お客さん本人が改装した後の部屋の状態次第で住まないこともあると言っていることから、仮に現段階で断られたとしても何の損害も起きていないという判断ですが、いかがでしょうか?

◯菰田弁護士の回答

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