賠償額の上限の記載がない身元保証書は契約書として無効か

◯事案の概要

採用時に提出してもらう身元保証書について、昨年4月の民法改正に伴い「賠償額の上限」の記載がない身元保証書は契約書として無効となるのではないか

◯相談内容

従業員の採用にあたって提出してもらう「身元保証書」についてご意見をいただけないでしょうか。

顧問先の企業において、従業員の採用にあたって「身元保証書」の提出を求めているのですが、昨年4月の民法改正に伴い、「賠償額の上限」の記載がない身元保証書は、契約書として無効となるのではないかという問い合わせがありました。

以下の点から、運用が形骸化していることもあり、総務担当者としては身元保証書を廃止しても良いのではないかと思っておられるようですが、役員に経営判断をあおぐにあたって法的根拠を整理しておきたいとのことです。(今まであったものを廃止するのも、なかなか難しい社風の会社です。)

1 身元保証書の有効期間について
現行の身元保証書には有効期間がきちんと定められていない。
身元保証法1条により、有効期間は3年と思われるが、3年をすでに経過した身元保証書は更新手続きを行っておらず、放置されている。
有効期間を定めたとしても5年が上限であり、5年より長く効力を残す為には更新手続きが必要と思われるが、実務的に非常に手間がかかる。

2 賠償限度額の定めがない
「入社者が貴社との雇用契約若しくは貴社の就業規則等に違反し、又は故意、過失その他の責めに帰すべき事由によって貴社へ損害を与えた場合は、入社者と連帯してその損害を賠償します」という文言があるが、賠償限度額を記載していないので無効。
限度額を定めるとしても、いくらに設定するのが適当なのかが判断がつかない。

3 使用者の通知義務および身元保証人の解除権について
身元保証人に対して「どのようなときに請求されるのか」「どのようなときに保証人としての契約を解除できるのか」などの説明がきちんとされていない。

また、従業員の任務または勤務地等が変更となって、身元保証人の責任が重くなったり、従業員の監督が困難になる可能性があったりしても、逐一身元保証人に対して通知をしていない。

①人を採用するにあたって、会社としては「身元がはっきりしている人であるか」「万一、何かあったときの為に」など、あまり目的を明確にせず、なんとなく形式的に身元保証書を取っているような感じなのですが、上記のような実務上の手続きがきちんとなされていないと、本当に何か問題があったときには、身元保証書はあまり役に立たないと思われますが、いかがでしょうか。

菰田先生の関与先企業様で、身元保証書を取っている企業は多いでしょうか?また運用は厳密にされているでしょうか?

②どうしても身元保証書を廃止したくない、とのことでしたら、必要最低限の手間で、企業として身元保証書を締結するメリットを享受するために、

・有効期間を明確にして、入社より3年ないし5年の期間限定の保証契約と割り切る
・賠償の上限額を100万~200万ぐらいの少なすぎず、かつ現実味のある金額に設定する
・賠償額の上限を定めたとしても、必ずしもその金額が全額賠償されるわけではなく、最終的には裁判所の判断でありケースバイケースであることを会社にご理解いただく
・身元保証人に対して、賠償が発生するとき、賠償額の上限、契約の解除など、説明資料をきちんとつくる

などを提案しようと思いますが、いかがでしょうか。
他に何か注意すべき点などがございましたら、アドバイスいただけましたら幸いです。

③この会社の就業規則に、「従業員が、故意又は重大な過失により会社に損害を与えたときは、制裁のほか、本人または身分保証人にその損害を賠償させることができる。」という定めがありますが、いくら就業規則に定めがあるといっても、有効期間を過ぎた身元保証人には賠償請求はできないですよね?

◯菰田弁護士の回答

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