社員同士の金銭貸借について

◯事案の概要

ある店の店長が、複数の社員、アルバイトに個人的な借金をしている。これについて、就業規則の服務規律に「従業員同士(退職後の者や内定者を含む)で金銭の貸し借りを禁止する」と規定するなどの対策を考えている

◯相談内容

社員同士の金銭貸借について相談させてください。

ある店の店長が、複数の社員、アルバイトに個人的な借金をしています。それを上司が注意したのですが、改善していないし返す目処もたっていません。

金を貸している側の従業員からも、少しづつ不満の声が出ているようですが、相手の方が立場が上なので、あまり強くも言えないという状況です。

今のところ業務に大きな支障は出ていませんが、このまま「返してください」「ちょっと待って欲しい」のやり取りが続くと、間違いなく険悪な雰囲気になり、他の従業員や店内の雰囲気に悪い影響が出ます。接客業ですので、それは売上低下にもつながります。

その現状を踏まえて下記3つの行動を考えていますが、これが労働基準法や民法的に問題ないか教えてください。

①就業規則の服務規律に「従業員同士(退職後の者や内定者を含む)で金銭の貸し借りを禁止する」と規定
→借りるのもダメとしておけば、それを理由に断りやすいのではと考えました。

②就業規則の懲戒事項に「従業員同士(退職後の者や内定者を含む)で金銭の貸し借りを行い、それによって業務に支障が出た場合、懲戒の対象とする。業務に支障が出た場合とは、当人同士の仲が悪くなり、それが他の従業員に悪影響を及ぼした場合も含む」
→これを理由に懲戒解雇までは考えていませんが、改善が見られない場合はある程度の懲罰は与えたいと考えています。

③人事評価制度や昇格基準で、店長は「他の従業員(退職後の者や内定者を含む)に対し、金銭の貸し借りを一切していない」者だけがなれるとする。
→「守れていない者は店長になれない」し、「今、店長である者は、本人から返済の申し出があり、それを2ヶ月以内に全額返済できない場合は降格させる」とします。

①②と、③の「守れていない者は店長になれない」は法的にも、労働条件的にも問題ないと思います。

③の「今、店長である者は、本人から返済の申し出があり、それを2ヶ月以内に全額返済できない場合は降格させる」は労働基準法が定める「不利益変更」と取られなくもないですが、私は十分に合理的な理由だと考えます。

店長に求められるスキルとして、従業員のモチベーションアップ、リーダーシップ、部下の見本となる姿勢等があります。他の従業員(特に部下)から金を借りて返さないというのは、それに明らかに逆行していると考えているからです。

全体の進め方としては、就業規則の変更や昇格制度の整備を進めながら、上司からあらためて現状確認と返済の意思確認をしてもらい、かつ、今後の社員面接では「借金の有無」も、やわらかい言い方で確認しようと思います。

法的な見解も含め、このように進めると良いなどあればアドバイスをお願いいたします。

◯菰田弁護士の回答

先生の書かれている内容で進めてもらっても全然問題はありませんよ。

私であれば、服務規律の中に従業員間の金銭の貸し借りを禁止する旨の条項を入れるのみにしておきます。おそらく、懲戒事由には服務規律違反が含まれているでしょうから、服務規律に反している時点で懲戒は可能です。

また、服務規律に違反し懲戒事由に該当する事実がある者を昇格させる事は無いでしょうし、それを理由に人事評価の評価内容が厳しくなっても不合理ではないでしょう。

もし、現在の人事評価制度が、そのような服務規律違反などを考慮する余地のない作りになっているのであれば、その作り自体を見直さなくてはなりませんが、仕組みを作り替えなくても考慮が可能なのであれば、このためだけに人事評価制度の作り替えは行わないと思います。

いろんなところに書き込んで仕組みを作り込んでいってしまうと、どんどん柔軟性が失われてしまいますので、私であれば服務規律の条文を追加するに止めますね。ただ、正解があるわけではないので検討されてみてください。