歩合と固定残業代について

◯事案の概要

総額は歩合で決定し、その上で基本給や時間外割増などを計算。残業手当(=総額ー基本給)>②+③であれば基本給+残業手当で支給し、残業手当(=総額ー基本給)<②+③であれば基本給+残業手当+(②+③−残業手当)で支給したいと考えている

◯相談内容

賃金の決め方なのですが、総額は歩合(=売上×○%)で決定します。その上で

①基本給=総労働時間×時給×1.0
②時間外割増=法定労働時間超の時間(法定休日時間除く)×時給×0.25
③休日割増=法定休日時間×時給×0.35

を計算し、残業手当(=総額ー基本給)>②+③であれば
基本給+残業手当で支給し、
残業手当(=総額ー基本給)<②+③であれば
基本給+残業手当+(②+③−残業手当)で支給することとします。

【懸念事項】
国際自動車事件(最一小判令和2.3.30)によると、歩合給から割増賃金を控除するような賃金制度は、割増賃金を支払ったことにならないとあります。事例の計算方法は、この判例のように否定されるのでしょうか?

◯菰田弁護士の回答

国際自動車事件(最一小判令和2.3.30)

この判例から全ての事例における「歩合」と「固定残業代」との関係性を導くことはできませんが、一定のヒントにはなります。

結局は、「歩合」という性質と「固定残業代」という性質が相容れるかどうかの問題でしょう。固定残業代はあくまでも残業代でしかないので、歩合という要素はありません。

となると、「歩合」の全額を「固定残業代」と評価することは論理的に矛盾を生じるものであり、そのような固定残業代制度は無効でしょう。しかし、例えば歩合の5割は純粋な歩合給だが、5割は固定残業代の趣旨を含むという取り決め方は問題ないと思います。

歩合が発生するということは、多くの売上を上げなくてはならず、多くの売上を上げるためには労働時間を費やさなくてはならないため、必然的に一定時間の残業が発生せざるを得ないのが合理的だと考えられるからです。

ですので、

残業手当(=総額ー基本給)>②+③であれば
基本給+残業手当で支給

これだと歩合全額が固定残業代となってしまい、違法性を有するでしょうが、

残業手当(=総額ー基本給)<②+③であれば
基本給+残業手当+(②+③−残業手当)

これなら歩合の一部分のみが固定残業代となるため、その金額によっては違法ではないという解釈が成り立つと思います。

しかし、これだと金額次第という運に任せた方法になってしまうので、必ず歩合の一部(5割程度)が固定残業代となるような計算方法に変更されることをお勧め致します。

◯その後の相談内容

菰田先生、ありがとうございます。

歩合の意味合いでなくなることがダメだということですよね。歩合と言わなければ良いのでしょうか。

会社としては、売上の22.5%を渡すことが事業をやっていく上でベストな金額で、支出はその範囲(A=売上×22.5%)で抑えたい。

抑えるために、実際に時間で計算して基本給と残業代を算出し、A以内であれば差額は本人の頑張りなのでプラスαの残業代として支給。(残業代は法定の計算より多くなるが、払い過ぎは問題ないと考えます)Aを超えるのであれば実際の時間計算分を支給。

Aはあくまでも会社が払える額を決めているだけ、というのは通らないのでしょうか。

◯菰田弁護士の回答

やりたいことの意味は分かるのですが、法的には通らないでしょうね。

会社が払える売上に対応した従業員に還元できる金額がその金額だという論理は分かります。ただ、それを歩合と呼ぶので、従業員が頑張った分に対して払うものであれば、それが全額残業代になるのは論理としてはおかしいですよね。

それを何か別の言い方にしたとしても、実態として歩合であることに変わりはありませんので、それは単なる労基法の潜脱でしかありません。私の方で大丈夫ですと言えるものではありませんね。

全額を固定残業代にしなくても、一部分を固定残業代にすることで、後は残業時間のコントロールで何とかなると思います。これで何とかならないのであれば、それは残業時間が多すぎるのでしょうから、やはり残業時間の抑制は必要でしょう。

杓子定規だと捉えられるかもしれませんが、固定残業代の無効リスクは金銭的にも相当大きなリスクになりますので、労務管理としては私は抱えるべきでないリスクだと考えています。

このリスクを抱えた上で経営を行うのであれば呼び方を変えて運用するのも1つの選択肢でしょうが。その場合は、万が一固定残業代が全額無効だと判断されてしまった場合の未払い残業代リスクをシミュレーションした上で進められてください。

◯その後の相談内容

ありがとうございます。

このアドバイスを踏まえて、例えば、フルコミッション(全額歩合)でその2割が残業手当とし、実際に計算した時間外手当が2割分を超えるかどうかを検証するのはどうでしょうか?

①歩合給=400,000円(2割は残業とする)⇒ 純粋な歩合給320,000円+残業手当80,000円 

②320,000円から割増賃金を算出し80,000円を比較し超えていれば差額支給、超えてなければ80,000円支給

◯菰田弁護士の回答

これは構わないですよ。

フルコミッションなので、あくまで最低賃金を割らないように最低保障額は作った方が良いと思いますが、このような形で大丈夫です。

そもそも、基本給・歩合給・固定残業代という3種類を作ってはダメなのですかね?歩合給に残業代の性質を併せ持たせるという方法にこだわる必要がないのであれば、分ければ済む話かなと思いまして。

◯その後の相談内容

もともとそうだったのですが、基本給・歩合給・固定残業代に分けたときの歩合率が基本給が変わった時(最低賃金が改定された時等)に見直さないといけなかったので、総額から逆算する方法を考えたのでした。(そうすると基本給が変わっても歩合率を変える必要がないため)

◯菰田弁護士の回答

なるほどですね、どのような形を採っても何らかの手間やデメリットが発生するでしょうから、何を優先して何を抱えるかですね。クライアントと協議して決められてみてください。

◯その後の相談内容

ありがとうございました。

以前のご相談の歩合についてなのですが、全額歩合給として、一部を残業代にしようと思います。つきましては、契約書に記載する文言ですが、下記のようにしようと思います。

<賃金>
出来高払制 
歩合給(売上×所定の掛率×80%)+固定残業手当(計算式を記載)

所定の掛率としたのは、能力によって変動するからです。

固定残業手当という文言の方が良いのでしょうか?実際は変動します。

◯菰田弁護士の回答

「固定」という文言を入れなくてはならないわけではないので、残業代として支払われていることが分かれば大丈夫ですよ。ですので、違和感があるなら「残業代見合い」とかでも良いのではないでしょうか?