実質的に法定相続分を下回る遺産分割を行った後に、相続人の債権者に対して対抗できるか

◯事案の概要

遺産分割で長女は有限会社への貸付金を相続し、長男が自宅の土地家屋を相続することに決まった。しかし長女は別に個人名義の借入金が存在し、その返済が困難である。弁護士に相談したところ、被相続人の有限会社への貸付金は長男、長女、二男の3人が等分に相続しなければいけないと言われた

◯相談内容

遺産は自宅の土地家屋2千万円(固定資産税評価額)と、被相続人の長女が経営していた有限会社(現在休眠中)への貸付金1千万円です。

今回の遺産分割では長女は有限会社への貸付金を相続し、長男が自宅の土地家屋を相続することに決まりました。ですが、長女は別に個人名義の借入金が存在し、その返済が困難である事を昨日弁護士に相談したところ、被相続人の有限会社への貸付金(実質的には返済の可能性は低いと思われます)は長男、長女、二男の3人が等分に相続しなければいけないと言われたそうです。

貸付金の債権者が金融機関であれば、相続人同士で決めた勝手な債務者変更は認められないと思いますが、今回の債権者は金融機関ではなく被相続人個人です。そこは自由な遺産分割協議が可能になると考えています。

おそらく自己破産の相談として受け取られたのではないかと思いますが、確認させていただきたいことがございます。

仮に自己破産することに決まった場合、長女の借入金の債権者(銀行やカード会社)は、債権者代位権を行使して遺産分割協議において被相続人の遺産の法定相続分を確保するよう求めることが可能になるかと思います。

ですが自己破産申立の前に遺産分割協議を済ませ、自宅の土地家屋を長男名義に変更した場合、債権者は被相続人の遺産相続で長男が取得できた法定相続分相当額を長男や二男に代位請求することが可能になるのでしょうか?

長女は自己破産するかどうかも定かではなく、一方で長男は3人の合意の上で自宅の土地家屋を相続した後に建物を取り壊して土地を売却する予定で、既に買主も決まっている状態です。売却後は長男から二男へ代償金を支払うという遺産分割協議が成立しております。

有限会社への貸付金は実質的に返済が難しいと思いますので、その意味では長女は今回の遺産分割では何も受け取っていないのが現実です。

①今後不動産登記を先に進めて良いのか、後回しにすべきか?

②長女の債権者から今回の遺産分割を切り離すことが可能なのか?

③切り離せない場合は時価相当額の土地家屋と貸付金を合計した金額の3分の1を債権者に払わなければいけないのか?

以上3点のご確認をお願いできればと思います。

◯菰田弁護士の回答

まず、前提として、通常の金銭債権であれば可分債権ですので、遺産分割の対象とはならず、相続開始と同時に法定相続分で相続されてしまいます。

もちろん、全相続人が同意した上で、遺産分割の対象にすることは構わないのですが、それは相続人間で有効なだけで債権者に対しては対抗できません。ですので、今回の相談された弁護士が言っている事は正しいですね。債権者が金融機関か否かは関係ありません。

次に不動産の件ですが、遺産分割で誰がどの程度遺産を相続するかは自由であり、自己破産においても否認の対象にはなりません。ですので、長女が価値のない貸付金を相続して、他の人が不動産を相続していたとしても、自己破産手続きの中では問題になりません。

①について

上の通りですので、不動産登記は進めてもらって問題ありません。

②について

上の通り、金銭債権は可分債権として法定相続分で分けられますので、相続開始時点で相続人みんなに帰属しています。ですので、債権者としては相続人みんなに法定相続分に従って請求することになり、これを切り離すことはできません。

③について

いえ、切り離せないのは金銭債権の方だけですので、金銭債権の3分の1が対象になります。