変形労働時間の要件とシフト通知について

◯事案の概要

「1か月変形のシフトが法定労働時間を超えているので変形自体の運用が適切でない、原理原則通り残業時間を集計しなおすように」という指導を受けている

◯相談内容

顧問先の労基署調査対応をしているのですが、「1か月変形のシフトが法定労働時間を超えているので変形自体の運用が適切でない、原理原則通り残業時間を集計しなおすように」と指導されています。

具体的には、暦30日の月で171Hのシフトが設定できないところ、176Hでシフト通知しており、法定を超えるシフトを通知していることから変形自体がアウトと判断されています。

最終日の176Hー171Hが時間外を判断されるのは当然ですが、たった1日の通知ミス、運用ミスだけを以て全ての変形がアウトとなるのはいささか偏った判断と認識しております。

①そもそも変形労働時間の要件が法定内のシフト通知でないと全て否定されるのか否か、ご指導いただきたいです。

就業規則には「1週平均40時間以内の1か月変形」とし、シフトパターンがいくつか規定しており、業務上の都合により始業終業が変更する可能性がある旨は規定しておりますが、個別の契約書には1日8時間の2パターンしか記載されていない状況です。

この2パターンしか記載されていないことから1回のシフトが8時間単位しか設定できず、171Hに設定することはできないから所定労働時間を月177Hや171Hと判断できないとの指導も受けています。

②始業終業時刻変更の権利濫用はさておき、行政レベルにおいて個別の契約書シフトに記載されていないから8時間以外のシフトが設定できないという指導内容も根拠がないかと考えておりますが、いかがでしょうか。

◯菰田弁護士の回答

①について

労働基準法32条の2第1項で、「一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、」と要件が定められておりますので、176時間だと週40時間を超えてしまって、個々の要件を満たさないでしょう。となると、変形労働時間制を採用する要件自体を欠いているので、厳密に言うと変形労働時間制の採用自体が否定されるのは筋だと思います。

②について

根拠がないというのはどういうご趣旨ですかね?
確かに、雇用契約書に8時間の記載しかないとしても、従業員と個別の合意があれば問題ありませんので、行政指導しなくても…とは感じますね。

◯その後の相談内容

ありがとうございます。もう少し教えていただいてもよろしいでしょうか。

①ここでいう定めとは、「就業規則その他これに準ずるもの」が主語になっておりますが、お伝えした通り、就業規則では1週平均40時間以内となっています。当該項でいう「定め」とは就業規則ではなく、シフトが該当するのでしょうか。あるいは矛盾した場合には、いずれか違法性がある方を優先して解釈するということでしょうか。

シフト自体は通知していますが、その月は合計176時間になっています。ここで、法定労働時間+1分のシフト通知ならアウトで、法定労働時間ピッタリなら問題はないということでしょうか。

現状の通知方法でも、予め法定労働時間まではシフトを通知し、別途時間外労働を命じていたことが内包しているという解釈余地は成り立たないでしょうか。成り立たないのであれば、法定労働時間を超えてしまったところを時間外労働であるとシフト内に明示があるか否かで判断するというのが通常解釈ということでしょうか。

今後は改善するのを前提に、ここは解釈で行政指導レベルは突破したいという意向です。

また、「根拠がない」ということについてですが、→個別の契約書において、シフトパターンが8時間しかないことを理由に1か月単位の労働時間の設定が8時間ギザミでしかできないという根拠です。

②つまり、就業規則に週40時間以内と記載されており、具体的にはシフトで決定するとされていて、さらに始業終業時刻の変更可能性も規定されている中で、個別の契約書をシフトパターン表記を根拠に160時間、168時間、176時間といった8時間単位でしかシフトが設定できないという指導には法的根拠がないのではないかということです。

③→就業規則に始業終業時刻の変更可能性さえ規定されていれば、権利濫用の議論はさておき、毎度の個別同意はなくても業務上の変更理由さえあれば問題ないという認識ですが、いかがでしょうか。

④また、もう一点なのですが、菰田先生のご回答を前提として法定労働時間を超えてシフト通知した月がアウトで1日8時間及び週40時間超が時間外労働となり、これ以外の月で法定労働時間以内に収まっている月は、変形労働時間適用で疑いの余地なしという理解でよろしいでしょうか。

◯菰田弁護士の回答

①について

やはり、就業規則などで定めていれば良いという問題ではないでしょうね。その論理だと、就業規則ではとりあえず8時間と定めながら、実際の運用では毎日12時間働かせていたとしても要件を満たすことになってしまい、形式上規則に何と書いているか次第というテクニカルな話になってしまいます。

ですので、実際に就業規則やそれに準じるものによって従業員との間でどのような合意がなされていたかの問題でしょう。今回は、事実上毎月超えていたというだけでなく、実際に従業員に対して月176時間でシフトを通知して運用しており、要するに従業員との間では176時間で定めがあったでしょうと認定されているのだと思いますよ。

②について

これはその通りでしょうね。具体的にはシフトで決定する以上、別に8時間きざみにこだわる必要性はありません。

各従業員と個別に合意しながら、基本形は8時間きざみであるものの、実際には7時間の日があったりしても、それは各従業員と合意できていれば問題がないはずです。ですので、イマイチ説得力に欠けるでしょうね。

③について

業務命令によってシフトが8時間でなくなる可能性があることを定めておき、それに対して従業員が了解しているのであれば、その解釈で問題ないと思いますよ。

④について

いえ、変形労働時間制は制度であって、月ごとに適用できるかどうかの問題ではないと思います。

ですので、従業員と平均して週40時間以内の勤務時間が合意できているかどうかの問題として、適用できるかできないかの要件該当性が判断され、月によって変わることはないと思いますよ。

結局、従業員と恒常的にどのような合意がなされていたかの問題でしょうから、基本形が週40時間超になっていなければ大丈夫だと思います。あくまで、恒常的に「一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをした」と評価できないときだけかと思います。

◯その後の相談内容

ありがとうございます。先生のイメージだと恒常的に法定労働時間を超えてシフト通知していることを想定されていたと思いますが、少なくとも本件は、通知ミスレベルでした。

◯菰田弁護士の回答

なるほどですね、たまたま通知をミスしただけと言うことであれば、恒常的に法定労働時間を超えているわけではないので、私は変形労働時間制の適用を否定されるほどの話ではないと思います。