遺産分割協議から書類が揃うまでに相続人が死亡した場合の対応について

◯事案の概要

遺産分割協議を行ってから全ての当事者の署名・捺印が揃うまでに2年間かかっているが、その間に相続人が1人死亡している。受任している弁護士からは「協議は2年前にまとまっている。自分が責任を持つので登記を進めてほしい」と言われているが、このまま登記を進めたときに司法書士としてリスクを負う可能性があるか

◯相談内容

弁護士から受任した相続登記の案件があります。平成A年遺産分割協議を当事者で行ない、書面を作成されましたが、相続人数名が協議に参加できていませんでした。その後、当事者が他の相続人についての遺産分割協議証明書の作成を弁護士に依頼したようです。

書面を見るかぎり、遺産分割協議を行ってから2年後の平成B年に全ての当時者の署名捺印が揃ったように推察されます。(当事者の1人が平成B年の日付を遺産分割協議証明書に記入)

ただ、協議をした当事者の1名が、平成B年の署名捺印が揃うまでに亡くなってしまいました。本来ならその死亡した方の相続人を協議の当事者とすべきかと存じますが、弁護士が「平成A年の遺産分割協議の際に話がまとまっているので、その日付で遺産分割協議証明書を作成(元々平成B年の日付となっているものを捨印で訂正)するので、登記を進めてほしい」ということでした。

弁護士いわく、責任及びリスクは全て私が負うのでとの話でした。当方では遺産分割協議書の作成に関与していない以上、この協議に基づいて、相続登記を行っても責任を負うことはないと考えていますが、いかがでしょうか。

念のため、弁護士から、遺産分割協議が有効に成立したうえで登記申請を依頼する旨の書面を受領しようと考えています。ちなみに、登記申請人は1名ですが、その方からも同じような書面を受領した方がよいでしょうか?

また、本人確認の方法ですが、司法書士としては、不動産を取得する方(登記申請人)の本人確認をすれば足りるので、その方に郵送(本人限定受取郵便)または面談で本人確認・意思確認すれば足りると考えています。

◯菰田弁護士の回答

まあ、どう考えても平成A年当時に全相続人での遺産分割協議はまとまっておらず、あくまで実体法的に遺産分割協議がまとまったのは平成B年でしょう。そして、すでに1名が死亡している以上、その相続人が遺産分割協議に参加しなくてはならないのは当然です。

ですから、確かに登記をするための書類関係は揃うのでしょう。ただ、実体法的には要件を満たしていないはずです。そうなると、実体法的に遺産分割協議が成立していることが確認できない登記をすることになるので、先生がリスクを背負って行うしかないですね。

添付の書面をもらっても、そのリスクをゼロにすることはできないでしょうから、あとは先生がどこまでリスクを背負うかの問題です。少なくとも、その弁護士から実体法的にも問題ないのだという意見書をもらっておいた方が良いと思いますよ。

やはり遺産分割協議が適法に成立しているということが前提の登記ですから、それが実体法的に成立しているという点について先生が疑念を抱いているなら、登記申請は書類が整ってもしてはならないと思います。

私達が依頼者の嘘を嘘だと気付きながら訴訟をして懲戒されるのと同じでしょうね。
弁護士と協議されてみてください。